伊香保温泉の階段に与謝野晶子の文章が彫られていた。写し取る。

 

『榛名山の一角に、段また段を成して、羅馬時代の野外劇場の如く、斜めに刻み附けられた桟敷形の伊香保の街、屋根の上に屋根、部屋の上に部屋、すべてが温泉宿である、そして榛(ハンノキ)の若葉の光が柔らかい緑で街全體を濡らしている。街を縦に貫く本道は雑多の店に縁どられて、長い長い石の階段を作り、伊香保神社の前にまで、Hの字を無数に積み上げて、殊更に建築家と繪師とを喜ばせる』

 

 伊香保の湯に浸かりにきたときにでも書いた随筆だろう。くだらない趣向だ。何の心も伝わってこない。

 

JUGEMテーマ:読書

 芸術は道端のクソだ。色合いが奇妙な、さびしいクソだ。興味のあるやつだけが近づいていって、好きなだけにおいを嗅げばいい。適度にくさいのは人生の刺激になるけど、くさすぎるのは毒だね。いずれにせよ、野球のような爽快感はない。ただ、ああいうにおいの強いクソをひるには、ホームランを打つのと同じくらいの才能がいるだろうな。

 

 今年もめでたくこの会合に出席できたことを心から光栄に思います。幾たび出席しても緊張感はほぐれません。早稲田大学の入試が難しいことを私も往時、身をもって体験しているので、それを突破した人たちに思わず敬意を表してしまうからでしょう。

この56年、毎年、この教室の、この生徒たちが、自分の最後の教え子だと思って講義しているため、そこでも緊張感が蓄積されてきました。緊張に次ぐ緊張で、この晴れの席でもまた緊張が重なるといった具合です。言ってみればその緊張感が、私を今日まで引っ張ってきたと言えるでしょう。つまり、きみたちによりよい形で生かしめられてきたということです。敬意と同時に、あらためて感謝の念も捧げたいと思います。

 たぶんこの一年できみたちが身につけたものは、明るい名望欲です。しかも、徒手空拳で達成できる名望欲です。この先の人生は、名望欲を遂げるには、政治か、コネか、僥倖といった武器が必要になります。大学合格は、明るく真剣な営為で達成できる最後の名誉でした。そのことを私は喜び、祝福します。真剣でズルのない努力の成果を喜び、祝福できる職業に自分がたまたまついていたという幸運に驚きます。この齢まで、真剣に、ズルをせずに生きられたというシンプルな驚きです。

この単純な驚きに浸されたまま、これ以上複雑な社会は知らないで残り少ない日々を生きていこうと思っています。今年もいまその確認をしています。毎年の節目の再確認を与えてくれてありがとう。そして合格おめでとう。この先は勝手に生きていきなさい。勝手に生きるのが基本です。わがままにという意味ではありません。不本意に生きてはならないということです。文明と文化の屋根の下で、本気で、しかもくつろいで生きていきなさい。

 これが別れではありません。これからも何回も再会しましょう。

 

以上。                               

 

(2017.3 早大合格者撮影会(早大南門 プランタンにて)

 


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