老齢にもいいところはある。思慮分別に気がねしなくてすむようになるからだし、猥雑な言い方をしても、修辞的にいつも正しいからだ。

 私はシェークスピア劇を楽しまない。いかにも博識を鼻にかけたというか、あとは客の感覚しだい、想像力しだいとでもキンキン声で怒鳴っているような臭みがイヤだ。とにかく、シェークスピア劇というと、何かそこには一種特別な気取った演技が要求されるものらしい。それが嫌いだし、興味も持てない。なんとなく学者の演説でも聞いている気がする。おまけに、王や王妃や貴族と人びととその名誉とやらを扱うシェークスピア流の主題が好きでない。おそらくそれは私自身の内面心理、私だけの唯我主義からきている。つまり王侯の問題など、自分の問題として考えることができないのだ。ハムレットの母親が宮廷のだれと寝ようと、そんなことはどうでもいい。ハムレットにとっては大きな心の痛手だったかもしれないが、私には何の興味もない問題である。
 あなたの興味の核は何かと訊かれれば、それはあまりにも幼い概念のゆえにアカデミックな言葉で表現することはできないが、「権力や富や威厳などに対する否定と嘲弄の色」と答えたい。いや、それではさすがに足りない。世俗の異端者、常識の謀反人、もっともそれは精神がひねくれていてことさら俗習に反抗するというわけではなく、ひねくれるどころか彼ほど純真無垢で生一本で開けっ放しで明朗な輩はいない、そういった神か白痴の社会でなければ見出すことができないと保証できる、なまやさしくない《人間》だと答えたい。

  • 2008.11.15 Saturday
 ヴェルサイユ会議のとき、クレマンソー(この会議の議長。情熱的な弁舌で『虎』の異名をとったフランスの首相)が、パデレウスキー(作曲家でピアニストでもあるポーランドの首相)に向かって言った。
「きみのような才能に恵まれた芸術家が、なぜまた政治家などに身を落としたのかね」


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―竹内銃一郎(劇作家)―

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