夢想

 書物――私はそのときまで孤独で、思春期の習慣からモノローグと脇ぜりふとに傾いていたので、紙の上を飛び回る活字にいささか辟易した。あまりにも自由な情緒の入り乱れた騒ぎを見て、私の頭は旋風のように渦巻いた。ときには、印刷されている感情が目くるめく混乱してしまい、遠く逃げ去ってふたたび取り戻せないように思われた。哲学、文学、美術、歴史、宗教、すべてが思い設けない言葉と方法で語られるのを私は聞いた。私は不思議な境地を瞥見した。そして幼い視点でしかそれを見られなかったので、なんだか混沌界を見るような心地だった。いままですべてのものを見ていた角度がぐらつきはじめた。地震にも似た革新が私の頭脳の全世界を揺すった。不可思議な感性の動乱だった。私はそれにほとんど苦しみを覚えた。
 ……以来、私は、事実よりも理想を好み、英雄よりも詩人を好み、事件よりも書物をいっそう賛美するようになった。人はその思想するものよりも、夢想するものによっていっそう確実に判断される。思想の中には意志があるが、夢想のうちにはそれがない。まったく自発的である夢想は、魂の形をとりそれを保全する。燦然とした宿命のほうへ向けられる無意志で限度のない憧憬ほど、人の魂の底から直接にまた誠実に出てくるものはない。こしらえ上げ、推理し、組み合わせた思想の中よりも、そういう憧憬の中にこそ、人間の真の性格は見出される。夢想こそ、最もよくその人に似ている。