一目惚れということは、恋の問わず語りや艶物小説にあまりに濫用されたため、ついに人に信じられなくなった。互いに視線を交えたために恋に陥ったということを、今日ではほとんど口にする人はいない。しかし、人が恋に陥るのはみなそれによってであり、またそれによってのみである。その他はやはりその他にすぎず、あとからくるものである。一瞥の火花を交わしながら二つの魂が互いに与え合うその衝撃こそ、最も現実的なものである。

 純潔は人を完全な状態に導く、と思うのは誤りである。肉の交歓のない愛情は悲哀の温床になる。純潔を旨とするとき、人は無差別な快楽の汚辱を忘れるが、無垢な情欲が愛する特定の肉体に厳しく存在することも忘れる。

 あてもない悲しみが寄せてくる。あらゆるものごとの黄昏に襲ってくる、抗し切れない悲しみ。人びとの積年の悲しみを葬り去った墓から、夕暮れに忍び出てくる悲しみだ。夢想や心酔、歓喜や消沈、信念、青春、あこがれ、秘密、絶望の残骸。夜はその墓の上に、ほがらかに輝きわたっている。

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  エピグラフは、旧約聖書の「伝道の書」。
   『すべてのことは人をうみ疲れさせる
   人はこれを言いつくすことができない』

1  笑い疲れているが、あしたも笑うであろうということ。
     ・・・・・・・・・・
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世界の中心に向かって最短距離を疾走する彼の言葉達は無謀なヘッドスライディングを必要としないのである。
―竹内銃一郎(劇作家)―

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