栄達を拝し、手段選ばぬ成功を尊崇するような、放恣きわまる私利私欲と金力のみに基礎をおく一連の社会組織の前にあって、人間的正義の力がいかに無力であるかを私はとくと思い知らされ、生きる気力を失うほどに慄然とさせられた。私の芸術は、その恐怖と静かな諦念から出発した。

礼儀作法は敬愛の意を表する人間交際の要具なれば、いやしくもこれをゆるがせにすべからず。  ―福澤諭吉

 私は学術的な知識にははなはだ疎い人間である。それなのに専門家の助言を求めることもしない。しかし、あまりの無知と怠惰に危機感を抱かないわけではない。レッテルや、背景や、見せ掛けがほしくないわけでもない。それでも私が他に扶けを借りようとしないのは、もし、何らかの形で、無知で怠惰な私の運命に専門家の干渉を加え、いわれのない学術的な幸運を甘受して、がんらい粗末であるはずの運命を変えたりすれば、運命の寵児となった私は相応以上に振る舞わねばならず、その私を貶めようとつけ狙う者たちが、私をさっさと抹殺してしまうような気がして恐ろしいからだ。自力で築き上げた知識に拠る分相応の運命ならば、貶められてもちっとも口惜しくない。
 さらに深い意味合いがある。私が人生の大半を通じて知恵の浅い原始人であったことを記憶している大勢の人びとがいて、私の飛躍を決して信じようとしないということだ。私の蓄えた知識に疑惑を抱き、真摯な物思いを信じようとせず、どれほど粗末な知恵に改良を加えようとも、私の雄飛を笑い飛ばす人びとがいるということだ。その範疇は、親族から始まって、身近な友人、そうして同僚をはじめとする細かな知人にまで至っている。彼らは私がものを書くことも、英語の教師をしていることも、趣味の多岐にわたる深化も、どれもこれも分不相応の営為として疑惑の目を向け、アラを捜そうとする。―バカのままでいるにかぎる。このルサンチマンに満ちた決断以外のものを私はよしとしない。

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1  笑い疲れているが、あしたも笑うであろうということ。
     ・・・・・・・・・・
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