彼らは学校という場所で、いったい何を身につけたのか。
 好ましき生活の規範が身につかなかったどころか、覚えたことといえば、ありとあらゆる贅沢に金を使うことだけだ。
 勉強の仕方が悪かったからだろうか。
 ごく少数の人は学問とか思考力とか真の利益を身につけたが、それはたぶん彼らがもともと賢かったからで、それ以外の連中は上昇志向に浮かれて健康をそこなったり、人から金を騙し取ったりすることを一生懸命覚えただけだった。何でもかんでもやりたがるが、できることは一つもない。それでいて、あしたからは新しい生活を始めようと考える。あしたから節制、節約をしようと考えるが、そんなことは金輪際できたためしがない。
 すなわち、いきあたりばったり主義なのだ。きらびやかな物質的装飾品と、精神の赤貧が同居しているのだ。

 周囲を見回すと、みなその分野にひとかどの人物で、少なくとも専門の領域にだけは通暁しているようだ。これがさらに有識者間の会話となったら、いったいどれほどのものとなるのだろう。恐ろしい。その恐ろしさは、文化人や政治家の話を聴いているときにしばしば感じる。とりわけ恐ろしいのは、からだが知識で充たされていることに対する、並外れたプライドである。
 しかし、私は彼らのようになりたいと思わない。私は彼らにちっとも羨望を抱かない。それというのも、情操のない知識にからだが充たされるような成長のありように、中空の思いを抱くからである。人は書物に属しているのではなく、感情に基づいた人間の世界に属しているだろう。私が書物に属した知的人物になったとき、たぶん情緒豊かな人びとからは必要とされないにちがいない。成長とは、知識の累積のことではなく、自らの感情やそれに基(もとい)する才質を見抜き、その伸長に惜しみなく時間をかける誠実さの度合いではないか。情操や才能はおそらく知識とは隔絶したところに生息している。無知という代物は、そのような人物にとって、重大な瑕疵とはなりえない。無知ゆえに豊かな感情や才能を失うはずがないからだ。人は、情緒と天稟の喪失ゆえに、人間そのものを失うのである。
                     ※
 あいつらときたら、やたらとおしゃべりで、何でも上っ面だけ撫で、本から齧ったことばかり派手にとうとうとしゃべりまくるが、頭の中には何も入っていやしない。そこへいくと、そんじょそこらの商人と話してみろ。彼らは自分の仕事のことしか知らないが、それをしっかりと身につけていて、あのおもちゃのガラガラみてえなやつらよりずっとましだ。
                  ―ゴーゴリ『死せる魂』

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     ・・・・・・・・・・
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