安全な鎖

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 環境はいつのまにか生活の周りに安全な壁を築き、そして、心は絶えず狭まっていく円周の中を旅しはじめる。そんなふうに人間の能力が安全性の中に束縛されると、人は現在の事物や知識を、到達しうるすべてだと思うようになる。これが一切だ、もうこれ以上何もない、現状にとどまれ、ただ一筋にぐるぐる廻れ。食い物と、睡眠と、他人の昔語りの聞きかじりと、老いと死を得よ。

もうこの上できることはないという迷信に匹敵する力を持つものは見つからない。すでに一切のものを持っている、これ以上何もないから進捗は不可能だ、という印象がいったん心に食い入ったが最後、人は地中深く打ちこまれた杭に鉄鎖で繋がれる。ついに円周の半径が決定的なものとなったのだ。

これこそ、安全ではあるが、心にとって最も恐ろしい、最も致命的な室内監禁である。型どおりの家庭生活の行事や行楽、同じ仕事、仕事にまつわる同じ考えやきちんと繰り返される茶飯事、そういうものの中に閉じこめられたとき、私たちはどんなに先鋭な着想や発見の光から見放されることだろう。人は、安穏とした生命の維持を超えた貴重な光を味わうために生まれた。だからこそ、日常の室内行脚の安全な鎖を解き、わがままに、陽射しの強い危険な野の領域へ帰っていかなければならない。