JUGEMテーマ:読書

 竿で岸を強く突けば、それだけ船は岸を離れる。人と疎遠になる因はみんな自分の側にある。
                           ―小山清『前途なほ』

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三月一日、『英語のツボ』に書いたオカマのケンちゃんが荼毘に付された。肝臓から転移した胃癌が原因で、吐血して死んだ。これは聞き書きで、私は入院期間中も風前の灯のときも、一度も彼に会いにいかなかった。私は健康なときのその人にしか興味がない。これまですべての人にそういう対応をしてきた。つまり、私は人を見舞ったことがない。

何かの弱々しい特殊事情を抱えた人の言うことに情緒的な(感情的なあるいは言語的なと言い換えてもいい)信憑性はない。強いからだであろうと弱いからだであろうと知性(記号駆使力と言い換えてもいい)に狂いは生じないが、情緒に関しては、強いからだでいるときに表現された場合にのみ信憑性がある。それは弱音(愚痴あるいは未練と言い換えてもいい)ではないからだ。

弱いからだ―病気だったり、宗教に冒されていたり、家系や肉親に取り込まれていたりする人びとは弱音を吐く。情緒は人間の真理を照らす最大の哲学であって、がんらい強いものであり、決して弱音ではない。弱いからだの持ち主の語る情緒じみたものは単なる弱音である。情緒に見せかけた模造品である。

私が病の床についたときにも、そういう対応を求める。どうか贋作の作業などさせずに、静かに死なせてほしい。死の床から真の情緒が発せられることはなく、弱音だけが漏れ出る。哲学は、他から支配されて弱いからだになったとき、死ぬ。弱いからだの人の弱音ではなく、その人の健康で強かったころの情緒を甦らせ、愛するべきである。私は死病の床に就かなかったころのケンちゃんの、すぐれた言葉の思い出をたくさん持っている。それで充分だ。

 

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―竹内銃一郎(劇作家)―

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