JUGEMテーマ:読書
 

    人は自分の不幸によってよりも、他人の不幸によってあきらめを教えられる。

    金というのは第六感のようなものであり、これなくしてはとうてい他の五感の完全な働きが期待できない。

           サマセット・モーム

 

おそらくライフワークになるであろう『愛河』という作品を、精神的しこりの解消のため、自分自身を苦しい固執観念から解放するために書いている。まえがきはようやく準備できた。

 

まえがき

 

あのころの心を満たしていたいろいろな空想を思い出すのは難しく、理解もできない。たとえ思い出しても、それがまちがいなく自分の記憶だとは確信できない。しかも、それらがみな私にはもう、思い出だけでなつかしいというのではなく、大きく神聖なものに感じられ、深い意味に満たされている。その淡い映像は、宿命とさえ思える。つまり、それは抵抗することのできない不可避的な感情で、宿命のように強烈な力を持っているということだ。そのせいで私は、大きな特別な事件が起こって私の人生を彩ったいくつかの地点に、いまも亡霊のように出没し、さまよい歩きつづける。

どうして私は、希望に欺かれるたびに、言葉を書きつけながら、時の経つにまかせてきたのだろう。なぜ、言葉の外へ歩み出さずに、言葉に順化しながら、自分を記憶の奴隷の窮地に追いこんできたのだろう。その問いに答えるためには、このまま言葉の内に留まりながら、きわめて長い、渾身の物語を書き記すしかない。しかし、思索を言葉の形に結晶させることに慣れた私自身はともかく、少なくとも言葉に順化することなく、わたしを言葉の外で翻弄しつづけた人びとは、私が長物語をする馬鹿さ加減を笑うだろう。

 おまえの思う真実なぞ、おまえだけの黄金だ。

まさしく、個人的な真実のために書き記される言葉は、ひとつの無為だろう。しかし、ある個人に啓発された真実には、年齢を推し量るすべがなく、かつて青春時代があったようにも見えず、またこれから老年になるということもなさそうに見える。そうでないかぎり、真実とは呼ばない。とりわけ、個人の言葉は、彼の真実を表現するために嘘をつくまいとする。嘘は、真実を翻転させる絶対の形だからだ。少しでも真実をゆがめる嘘は、実社会の嘘よりも罪が重い。

ただ、言葉は光であるがゆえに、たとえ真実を表現する手段であろうとも、虚構の陰影を作る。しかし陰影は真実を隠蔽する嘘ではない。個人的な真実を書き記す言葉の内には、いわば沈黙があり、必要なことのほかは口を利かない饒舌があり、利害のあるなしに関わらず、真正の現実をけっして含まない。しかもその言葉はたぶん、彼以外の人間を魅了するだろう。

 

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     ・・・・・・・・・・
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―竹内銃一郎(劇作家)―

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