十六歳

JUGEMテーマ:読書
 

十六歳

尋常ならざるほど本を読んだ。本質的な傑作の群れにたどり着く以前、私もご他聞に洩れず、ビート・ジェネレーションの作家たちを読んだ。芸術ではなかった。クソだった。それに影響を受けた大江や安部もクソだった。こういうものを書かなければ、こういう書き方をしなければ作家になれないとするなら、私は永遠に作家になれないだろうと思った。そして、この風潮は三百年もつづくだろうと思った。その予見はあやまたなかった。

美しく、倫理的な苦悩に殉じる芸術がなければ、人間社会は澱む。風潮という形式の中へ分類されるような美的でない創造物は、澱んだ社会に一ミリの変革ももたらさない。苦悩を美意識によって克服しようとするだれの思いも満たさない。クソとして歴史の道端に堆積されるだけだ。風潮は一種の投票箱から生み出されるいっときの体制なのだ。体制はかならず腐って次の体制と交換される。普遍的な芸術は普遍的な人間の感情に基づいているがゆえに、日々新しく、腐らない。生命を美意識と感情で支配しようとする人生の目的に忠実そのもので、人に伝えて誤解の余地がない。真の芸術は確たる権威をもって語りかけるが、時代時代の体制は、脈絡のない流行の文句を囁きかけるか、流行に隷従する人びとに妥協するだけだ。

シュトルム・ウント・ドランクの時代を跋扈した芸術家たちは、何億年もダイアの輝きを失わないだろう。もう私に必要なのは、ダイアを目撃したという記憶だけだ。それだけで生きていけるし、生きていく。

1