早稲田合格おめでとう

JUGEMテーマ:読書
 

おめでとうございます。合格の興奮冷めやらず、感きわまっていることと思います。感激に浸ってください。早大生になれたのですから。

私が四十年も前に歩いたキャンパスや周辺の町並を、きょうから君たちが歩くのだと考えると、四十年という時間の経過の速さに驚くと同時に、若い君たちにあのころの自分の姿を重ねて深い感慨が押し寄せます。早稲田大学は、若かった私に可能なかぎりの青春の喜びを与えてくれた大学でした。

早稲田を出てからの私は、その青春の残り香を大勢の人たちに振り撒くことに意義を見出し、それのみに時間を費やしてきました。三十年近く教職に就いて、肉体と魂を削ってきたのもその気持ちからです。あのころの、読書、恋愛、酒、ギャンブル、友情……どれ一つとっても、私の現在の人格形成に影響していないものはありません。あのころ、ああいう学生生活を送っていなければ、いまの精力的な人生はなかったでしょう。

当時を振り返ると、たしかに、授業には出ませんでしたし、特定の教育者との親交も深めませんでした。クラブ活動もせず、図書館へもかよわず、学園祭にも参加しませんでした。学生の身分を謳歌するのみで、本分を尽くしませんでした。しかし、自分の部屋の机と早稲田大学との往復の道のりに、私なりの青春がありました。このキャンパスと町並から、親しい友とともに、喫茶店へ、雀荘へ、酒場へ、別の友人の棲み家へ出かけていくことにこそ、私の青春そのものがあったのです。

いずれ君たちも年を経て、自分なりの青春にあらためて思い当たって、電気に打たれたようになる瞬間を経験するでしょう。早稲田大学は、そういう充実した思い出を大切にして生きる人びとを永遠に老いさせることがありません。鮮やかな思い出に生き、その思い出の中に死のうとする人びとの永遠のカンフル剤なのです。そういう特殊な大学だと思います。

毎年、四月一日は早稲田大学の入学式です。空は晴れ上がり、桜の花が満開になります。まず雨は降りません。その桜の下から、青春の真っただ中へ飛びこんでいってください。私はこれからも、青春逍遥にあこがれる若者たちを鼓舞して、君たちの後につづく者としてこの喜びを経験できるよう鍛えていきます。それは私の青春をなぞってくれる、ある意味《時代はずれ》の後輩を作り出す努力でもあります。時代はずれとは、時代の流行を考慮せず、本質のみを求め、無意識に時代の最先端をゆく人びとにだけ与えられる特質です。青春はうるわし。その麗しい青春を未来にかけて忘れないために、この現瞬に、ドラマに満ちた、情熱的で、時代はずれの破天荒な学生生活を送ってください。それは君たちに、今しか許されないゆたかな特権です。

ほんとうに、合格おめでとう!