漫画を読みつづけて六十年になんなんとしている。横浜の浅間下の三帖の板間に母と暮らしていたころに、漫画少年の歴史が始まった。小一から小四にかけての四年間、読みに読んだ。私の小遣いは、一日十五円。工場に勤める母が昼食代として置いていったのだが、私はその十五円を月曜から金曜は貸本に、土曜日は映画に流用した。昼めしを食わない習慣はそのころについた。

当時漫画本の貸し料は、一冊一円から五円と安かった。『影』、『街』、『魔像』といった日の丸文庫を中心に、『忍者武芸帳』、『よたろうくん』、『赤胴鈴之助』、『暗闇五段』、『スポーツマン金太郎』、『ロボット三等兵』、『イガグリ君』、等等等と読み漁った。やがて、「何冊借りても五円でいいよ」と言ってくれた親切なお婆さんの店の漫画棚を、その四年間で征服した。

いまなお、文学書にせよ、漫画にせよ、全集で読む征服癖が身についたのは、その四年間の漫画への没入のおかげだ。一コマ一コマを丹念に見る習慣はその後の活字の熟読に結びついた。人はゆっくりとことを行なえば、多量のものを征服できる。克明な暗記癖もそのころについたのだったが、その癖をもってすれば、青年時代のもろもろの登竜門通過も難がなかった。いまもって漫画を熟読する習慣が、活字ばかりでなく、周囲の景物をも克明に目に収めようとする日常に役立っている。つまり、漫画を継続して読みつづけているのは、感覚の怠惰を戒める大切な叱咤の方途なのである。

JUGEMテーマ:読書

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十年以上前の早予生、かつ元早大生Nくんが、ついに、レイ・ロビンズの『イッツ・オンリー・ラブ』を発見して送ってくれた。海外の本人発売のCDだった。十年がかり。相当苦労して入手したにちがいない。Nくんは、私がこの五十年のあいだにどう努力しても蒐集できなかった曲をすべてメモし、パソコンで調べたり、歩き回ったりしては発見し、こつこつ私に送りつづけてきた。中には曲名すらわからないものもあり、テープで繰り返し聴き、題名のあたりをつけて探してくれたものさえある。高嶋政宏の『エピローグ』はその最たるものだった。これは有線から流れてきた曲をたまたまテープに採っただけの、歌手名もわからないものだった。「君を乗せてく夜の船……」という歌い出しだけを手がかりに、彼は探し当てたのである。

今回送られてきた曲に関しても、十年も前、シンディ・ローパ主演の映画『マイアミ・ムーン』の挿入歌であることを彼に告げて、いっしょに映画を観ることを強いた。三十秒ほどの挿入部分を何度も聴いた。エンディング・ロールの曲名の羅列を見ても、どの曲なのか見当がつかなかった。サウンド・トラックも発売されていなかった。

そうして、今回の発見である。どうやって彼女にたどり着いたのか? 彼の魔術に対して感謝や感激といった月並みの感情表現ではまったく足りない。私ごとき男に対する長年尽きない彼の愛情に震撼した、いや、そう言っても不十分だ。

なぜなら、彼は、この種の探索以外にも、さまざまな面で私を助けてくれたからだ。ギックリ腰の私を家のそばの最寄り駅まで送り届けてくれたり(できることではない)、私の著書のほとんどを読んでくれたり(これもできることではない)、その中に描かれた場所を逐一巡ってその変貌具合を語ってくれたり(これもさらにできることではない)、一枚板のバカ重い机や書棚をトラックで運んでくれたりと、数え挙げれば尽きない。Nくん、ほんとうにありがとう。

似たような献身をしてくれる元早予生、かつ早大生がもう一人いる。やはり十年にもわたって、私のリクエストする映画や音楽の編集をしては、ジャケットまで作成してDVDやCDの形にして送ってくれるKくんだ。彼は、Nくんと同様、私の著書のほとんどを読み、細やかな感想を語ってくれた。また、コンピューターの達人である彼は、私の英語の知識を短期間で徹底的に吸収し、私以上の英語の熟練者となった。英文科を出て、現在、ある高校で英語の教師をしている。おそらく、彼の周囲で彼の読みの深さの右に出る者はないだろう。

Nくんはつつがない結婚生活を送っている(アイ・ホウプ)が、Kくんは深刻な恋に破れたばかりだ(アイム・ソーリー)。それぞれ身に抱えた事情をものともせず、彼らは私にも愛を分かち与える。落涙するしかない。

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     ・・・・・・・・・・
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