JUGEMテーマ:読書

 

 現今の創作態度。象徴的言葉と象徴物(宗教まで動員しての下駄預け)、複雑ぶり(単純嫌いという名のプライド)、政治・社会・経済制度に関する該博(資料的知識の無秩序な羅列による能天気なスペクタクル)、愛の香り(かわいいものを一瞬愛撫したくなる根源的な愛があるわけではない)。どれもこれも、個人の貧しいスケールを拡げてみせるさびしい営為だ。

 個人は貧しいものだ。それを許せない営為に創作者個人の安らぎはない。また、集団の複雑を知らなければならないという脅迫は、だれにも安らぎを与えることはできない。不本意な生を享(う)けた個人のより深い安らぎを目指して、政治も経済も社会制度もある。それが絡み合えば、機構的に複雑な様相を呈するのが当然で、それを描写して人間社会の複雑さを声高に主張しても、何人(なんぴと)も救済できないのである。当惑を与えるばかりだ。芸術の本義は個の救済であって、趣味的なプライドの跳梁ではないのだ。

 この趨勢をよしとする流行が、おそらくいつの世にもある。機構を認識しない個を愚者として哀れみ、個の有機的な情緒を集団の複雑で無機的なからくりよりも低価値と見なす流行である。そうなると個は、突発的に機構に殺されてもよいということになる。個を満たす単純で醇雅な愛に希望がないとすれば、その事実に絶望した一人ひとりは、多重な機構にくみすることを是とする大船に不得要領ながら乗ることが救いとなる。くみする員数が多ければかならずその大船は沈む。なつかしい地球は消失するということだ。

 蜘蛛はみずから張った蜘蛛の巣の構造や組成の複雑さを知る必要はないのである。巣の複雑さは生命体の本能が生み出したものだ。その網の上で理知的に孤高に生き、愛し合い、生殖し、環境の変化や個同士の事情に苦しみ、でき得る限りの延命をすればよい。その延命の歓びと、はかなさを、創作者は描き出してやるべきだ。そこにこそ、芸術家という特殊な人種のレーゾンデートルはある。芸術家はネットワークの複雑さに負けて、個の貧しさを慰撫するという存在意義を失ってはならない。

空しさはあるが、私は死ぬ日までこのメッセージを芸術家と自認する人びとに送りつづける。ボルボックス(群体)の複雑さや進化という本能を描いてはならない。きみが意識的に鼓舞すれば、ますます群体は勢いを得て複雑になり、進化し、理知にあふれる個を黙殺するようになる。涙を流しながら、個の貧しさ、すなわち、貧しい善と貧しい悪と貧しい幸福と貧しい不幸という理知を描きつづけよ!

https://youtu.be/FUkONxdttCY

 

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     ・・・・・・・・・・
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―竹内銃一郎(劇作家)―

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