2016.07.11 Monday
無題
私は彼らに心が惹かれるのを感じることがあった。彼らには美点があった。善良さ―何の作為もない素朴な善良さだった。同時に彼らの退屈さにも惹かれていた。生計と、蓄財と、子育てと、近所の行事以外に関心のない彼らも、食卓を囲むたびに人生訓を吐いて面目を施している家長も、世の中のことと勉強のことしか言わない長男の秀才も退屈だった。しかし、私のその日暮らしに比べると、この麻薬のような退屈さはとてつもない魅力だった。このまま彼らの中に埋もれてもいいとさえ思った。日常に抱きしめられる感覚。大勢の人の人生を踏襲する幸福に身をゆだねるということは、たしかにある意味で倫理への敗北かもしれない。でもそれは、こと芸術作品でないかぎり、多くの勝利よりもはるかによい敗北なのだ。