ひとりきり

 

 私は無力だった。大勢の中に出ていって、いろいろとめずらしい考えを聞かされると、まるきり反応できないのだった。私は彼らの大上段な言葉に刺激されながら、予想さえしなかった言葉の海にただよっているうちに、とつぜん、自分がほんとうに求めてきた自由は、ただ〈ひとりきり〉だったということに、彼らは不気味なやり方で私をもとの〈ひとりきり〉に戻したことに、その彼らはもう私には何の関係もないことに、いや私自身がむかしから彼らに何の関係もなかったことに思い当たった。それはもともと求める必要などない自由だった。私は最初からひとりきりだったのだ。

 

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