JUGEMテーマ:読書

 

 友は、私と私の母のことを考えた。私はたしかに彼女を恐れている。しかし、どうしてか彼にはそれが臆病のせいとは感じられないのだ。私の立場にあったら、自分だって彼女に恐怖を感じるだろうということはじゅうぶん理解できた。ただ、静かすぎる。恐怖を抱きながらも敵の砲台に向かって静かに突き進んでいく姿は、自殺者特有の気質をはっきりと示すものに思われた。きっと私には先天的に、他人の障害になる人間に対して煮えたぎる怒りがあって、なぜもっとみんな命がけで彼らに対処しないのかという苛立ちがあって、彼らに対峙する唯一の方法として、恐怖とは正反対の自死をして見せようと覚悟し、身の安危も意に介さずに彼らを排除する志を抱いたのだ、たぶんひどく幼い時期に、と彼は考えたのだった。
 死を見せつける相手は、たまたま母親であったにすぎない、恐怖や不安の対象がほかのものでも、たとえば友人であれ、愛人であれ、意地の悪い人間であれ、恐怖が契機になった場合はかならず、相手を殺すのではなく、自死の方向でものごとを考えるたちなのだと。しかし、そんなことで排除されるような彼らではないと気づいたときに私が倦怠に陥ったことまで、友は静かな自死と錯誤したのだった。
 絶望でも諦観でもない倦怠に陥ってからの私は、自然な延命を願うようになった。いまなお煮えたぎる怒りや、生命欲を奪う恐怖が収まることはないが、その反動の自死願望もない。この倦怠に満ちた命を喜ぶ人びとがわずかにいて、彼らのために使い古しの命が役立つことを知ったからだ。

 

感動に身をまかせると、後悔をたたえた心の洞(ほら)や、色彩豊かな思い出の深みへしばしば連れていかれるけれども、そこでざわめいているすべてが新しい生活への希望に転化して安らかな旋律を奏でる。

 

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―竹内銃一郎(劇作家)―

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