2017 贈る言葉

 

 今年もめでたくこの会合に出席できたことを心から光栄に思います。幾たび出席しても緊張感はほぐれません。早稲田大学の入試が難しいことを私も往時、身をもって体験しているので、それを突破した人たちに思わず敬意を表してしまうからでしょう。

この56年、毎年、この教室の、この生徒たちが、自分の最後の教え子だと思って講義しているため、そこでも緊張感が蓄積されてきました。緊張に次ぐ緊張で、この晴れの席でもまた緊張が重なるといった具合です。言ってみればその緊張感が、私を今日まで引っ張ってきたと言えるでしょう。つまり、きみたちによりよい形で生かしめられてきたということです。敬意と同時に、あらためて感謝の念も捧げたいと思います。

 たぶんこの一年できみたちが身につけたものは、明るい名望欲です。しかも、徒手空拳で達成できる名望欲です。この先の人生は、名望欲を遂げるには、政治か、コネか、僥倖といった武器が必要になります。大学合格は、明るく真剣な営為で達成できる最後の名誉でした。そのことを私は喜び、祝福します。真剣でズルのない努力の成果を喜び、祝福できる職業に自分がたまたまついていたという幸運に驚きます。この齢まで、真剣に、ズルをせずに生きられたというシンプルな驚きです。

この単純な驚きに浸されたまま、これ以上複雑な社会は知らないで残り少ない日々を生きていこうと思っています。今年もいまその確認をしています。毎年の節目の再確認を与えてくれてありがとう。そして合格おめでとう。この先は勝手に生きていきなさい。勝手に生きるのが基本です。わがままにという意味ではありません。不本意に生きてはならないということです。文明と文化の屋根の下で、本気で、しかもくつろいで生きていきなさい。

 これが別れではありません。これからも何回も再会しましょう。

 

以上。                               

 

(2017.3 早大合格者撮影会(早大南門 プランタンにて)

 

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