誰にも笑われねえ場所

「あたしは息子のために働いてきたンだよ」

「そいつァそのとおりだろうさ。結婚して、子供を育てる、そういう女の生き方を笑える奴ァ一人も居ねえだろうよ。ところが野郎ときたら、どんな生き方をしたって、どこか不完全で、誰かに笑われているような気がしてしょうがねえもンだ。子供を育てるなンて立派な項目は男の生き方にはねえンだからな。男のすることの一番根本は、誰にも笑われねえ場所をみつけるために、もがくってことなンだ。そのもがきを封じちゃいけねえ。もがく自由を与えてやりな」

(怪しい来客簿―『ふうふう、ふうふう』色川武大)

 

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