こんなふうに叱られる人しか世に出られないことを、私は長い人生で知った。

「きみには才能があるが、それを台無しにするようではだめだよ。きみはどうも忍耐力が乏しいから、何か一つのことに心を惹かれるか、気に入るかすると、それにばかり夢中になって、ほかのことはまるでくだらないとばかりに、いっさい見向きもしなくなる。けっして人気取りにはならないことだよ。どうもいまからきみは、破格な筆致がひどく目立つ気味があり、構想も厳密でなく、どうかするとまったく力が抜けて、描写にもごまかしがある。なんでもパッと人目を惹くところばかり狙って、俗受けのしそうな言葉のいろどりに憂き身をやつしているようだが、うっかりすると、すっかりエセ前衛に堕してしまうよ。気をつけたまえ。きみはそろそろ世間体が気になりだしたと見えて、ちょいちょいしゃれた服装をしたり、けばけばしい髪型をしたり、髭を生やしたりしているようだが……。その誘惑の伝で、なるほど金を目当てに請負業者好みの精神病ものやSFものや冒険譚をつい書きたくなるかもしれないが、そんなことをすれば才能は滅びこそすれ、伸びはしない。辛抱が肝心だよ。どんな仕事でも、念には念を入れてやることだ。洒落っ気なんか打っちゃってしまいたまえ。他人が金を儲けるなら儲けさせておくさ。なにもきみの分までなくなるわけじゃないからね」

 かく叱られる人物は、その立派な助言をみごとに拒否してわれを打ち通し、堂々と世に出る。私は一度もそんなふうに叱られたことがない。矯められる以前におそらく私は理想の芸術家であり、叱られる種がなかったからだろう。つまり、才能がないということだ。才能のない者は、いつの世も後援されることはない。

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