JUGEMテーマ:読書
 

これまで、数かぎりなく有識者という人たちに出会ってきた。彼らは政治、哲学、宗教学、物理学、生物学上の書物に特別な興味を感じているのはもちろん、同時に芸術上の書物でも、世間評価の高いものは見逃さなかった。しかしそれは、彼らが芸術を愛しているからではなく、なんでもかでも読んでおくのが自分の義務だと観じてやっているのだということ、また芸術は彼らの性質からいっても無縁のものだということを、私は知っていた。したがって彼らは、政治・哲学・宗教の領域では、学説どおりの疑義を抱いたり、模索したりすることさえあって、曖昧な定見を匂わせたけれども、絵画とか、映画とか、音楽とか、ことに文学のほうの理解力はまったく欠けていた。彼らはたしかに、ピカソや、ブルックナーや、ゴダールや、それからもろもろの学問や、社会事象を意味不明な言葉で論じるのが好きだった。ところが文学となると、流派の意義などを分析してみせるのは得意らしかったが、個々の作品の美質や、自分が感銘した点となると、さっぱり何も口に出せないのだった。

「あの部分には涙が出ました」

 とか、

「それまでの人生を揺すぶりました」

 などと、じつにシンプルなことを言えばよかっただけなのに彼らにその言語系列のことばは蓄積されていないようだった。

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    ―竹内銃一郎(劇作家)―

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