- 2014.03.02 Sunday
彗星
私は、事実よりも理想を好み、英雄よりも詩人を好み、世間の実際のできごとよりも架空の倫理的な物語を賛美してきた。芸術書を読みはじめると、作者と私とのあいだに信頼感が芽生え、その親密な世界を二人で手を携えて進み、物語の終わりはけっしてやってこないように思われた。ページの途中の物語のほかにはどんなドラマも期待できず、それ以外のものは空しい幕間(まくあい)だった。
芸術書は彼方の空に見える彗星に似ている。一冊一冊が、光芒を放つそれぞれの一瞬を持つ。叫びを発して飛び立ち、不死鳥のように燃え上がる。その架空の一瞬間を目撃したせいで、本はのちになっても愛の対象になる。そして、帰らぬ燃焼の追憶を抱きながら、光を失ったページを散策する。死んだ感動の一瞬をそこに訪ね歩くために。
芸術書は彼方の空に見える彗星に似ている。一冊一冊が、光芒を放つそれぞれの一瞬を持つ。叫びを発して飛び立ち、不死鳥のように燃え上がる。その架空の一瞬間を目撃したせいで、本はのちになっても愛の対象になる。そして、帰らぬ燃焼の追憶を抱きながら、光を失ったページを散策する。死んだ感動の一瞬をそこに訪ね歩くために。
- 週言2014年03月
- 11:24
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- by 川田拓矢