JUGEMテーマ:読書
 今回は高校時代の作文です。
 かなりのできですが、まだまだです。これをもっと砕いた表現にして、後年、牛巻坂を書きました。
  彼女は反抗期の子供を持つ母親の現実に初めて直面して、どうしていいのかわからなかった。これまでずっと親子の生活を維持するために、工場とか飯場といった身に合わない荒くれた世界で働きづめできたので、それ以外の苦労を考えるのが面倒で、子供の巻き起こす厄介ごとにぶつかるたびに、なんとかそれを避けるようにして生きてきた。これまではそれでだいじょうぶだった。だから、いま目の前の危機が彼女に与えた印象は、ふだんの生活のために何ごともなく往き来していた道が、ある日とつぜん、大雨のせいで水浸しになって動きがとれなくなり、それどころか、ふと足もとを見ると、どこからか押し寄せてきた濁流がいまにも自分をさらっていこうとしているのに気づいたような感じだった。
『あのぎらぎらした野蛮な目はいったい何なの! 親に向かって利く口なの! 皮肉と悪意でいっぱいじゃないの! 子は親に従わなくてはいけないのよ。これはどうしてもカタをつけなくちゃ。この子に何が起きたのか知らないけど、何が起こったにせよ、どうにかしなくちゃいけない。わが子に遠慮してとんでもないことになったら、私自身も共倒れだし、世間さまにも申し訳が立たない』
 しかし、以前は彼女にとって千鈞(せんきん)の重さを持っていたそういう理屈も、いまはその力を失ってしまっていた。彼女は、自分がクソッたれ呼ばわりまでされながら、どうして後ろめたい気持ちになるのかよくわかっていた。
 ―でも、あの怪しげな電話の主を突きとめなくちゃ。隠しごとをしているとき、人間というのは身近な人間のいたらなさ加減を責め、クソッたれ呼ばわりするのだ。秘密の追求を避けるために、馬鹿とかクソッたれという言葉だけは、いちばん身近な人間に気前よく献上するのだ。
 

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―竹内銃一郎(劇作家)―

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