早稲田に入学してひと月ほど、さまざまな授業に出た。教授たちの特徴は、巷間の情緒を笑い飛ばすことだった。彼らのものの見方の一面性からすれば、たしかに、そういう情緒のすべてが非常に単純で明白だったにちがいない。

 

 名もない人間どもの愛とか、友情とか、苦悩とかいった、学問の糧にならない非論理は、歯牙にかけるべきものではない――その意味での彼らの自信は揺るぎないものだったので、非論理に対する論理の優越性を疑うようなやつは、軽蔑するか屈服させるかのどちらかしかありえないのだった。

 

 大学の教師たちが認めるのは、自分と同等か同等以上の知識人、あるいは自分を崇拝する同僚や学生たちだけだった。彼らはすでに『学問』への情熱を失い、居心地のいい権威集団の片隅に安住していた。むろん、黒板の緻密さを見れば、たとえ付け焼刃でも『学習』は熱心につづけていることはわかった。その精力だけはまがいものではないようだった。ある意味そういう独善は、スケールこそ小さいけれども、英雄の証だ。しかし色を好むはずの彼らに色気を感じなかったのはなぜだろう。

 

 

JUGEMテーマ:読書

 

 

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