拙いところが愛嬌になるというのは、素人芸の域である。素人はその素人芸の至らないところを叱られてこそ存在意義があり、けっして褒められてはならない。芸術、学問、演芸、話芸、歌、芝居、スポーツ、ギャンブル……当今、そのすべてにおいて奇異な逆行現象を生じている。玄人を忌み、素人を愛嬌ありとして愛でる―それだけなら、ある種のスカトロジー(糞嗜好)として気味悪がっていればすむが、才能の有無まで逆行させようとしているについては、由々しきこととして見逃すわけにはいかない。
 多数派である純粋な素人は素人に安堵し、情愛すら感じるものだ。少数派の雲の上の人には嫉妬こそすれ、愛を捧げる気持ちにはならない。玄人あるいは玄人を目指す素人は、少数派である玄人に憧れ、有象無象の素人を忌む。堪能すべき才能がないからである。
 しかるに当今の逆転現象は、その才なき輩を才ありとして褒め讃えるものである。それは圧倒的多数の純粋素人を安堵させ、生き甲斐を感じさせ、自らを玄人とさえ錯覚させるためだ。なぜか? 玄人として愛で上げられた素人が商業市場で活躍するようになると、その愚にもつかない作物を彼らに安堵する圧倒的多数のための商品として売りさばくことができ、商品を生み出す後継素人にも事欠かないからである。
 それゆえ、携帯低能小説や幼児倫理少子化小説が、テレビお抱えはいはい学者や成り上がり芸能人保守政治家が、一芸不所持関西しゃべくり芸人や親の七光り木偶(でく)タレントが、無メロディー叫び上げあるいは囁き歌手やブルース知らず黒人嫌いのラップ歌手が、お笑いあるいは歌手上がり大根俳優や小金持ち無目的権威主義監督が、内野安打製造打率至高主義打者や偏差値50甲子園組が、手なりデジタル・リーチ即降り臆病雀士や血統至上本命ハズレ馬券予想師が、幅を利かせているのである。
 彼らの手役は鬼をもひしぐ創造力ではなく、大衆を震え上がらせる表面的な専門周辺知識である。しかしそれはあくまでも下手の横好きの素人芸であって、断じて玄人芸ではない。大衆社会爛熟のもと、彼ら一派の機嫌を損じないように、下手の横好きをプロと呼んであげるようになった。才能の冠まで付けて。
 すべてマテリアリストの金ほしさのゆえに、かくなる現象が流行としてもたらされたのであるが、金に苦労のない、しかも金と流行に根本的に魅かれない、永遠の時空を睨む玄人志向の才人が商権を握らないかぎり(金を好まない商人が存在すべくもないので、私の仮定は言語矛盾であるけれども、強いて先例をたどればパトロン芸術のみが唯一のものである)、能ある玄人のためのルネサンスは訪れない。訪れるとするなら、それは何らかのディザスターによって世界的に金融共同体が破綻するときである。

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Comment
管理者の承認待ちコメントです。
  • -
  • 2010/10/16 05:57
yamaさんへ

Thank you.
君は素直ないい子だね。
  • 管理者
  • 2008/05/20 19:28
遅くなりましたが、
ノートンさんありがとうございます。

そして管理人様、
裏週言読ませて頂きました。
貴重なご意見ありがとうございます。
私が悩んでいる理由、ずばりご名答です(笑)

いろいろと考えました。
少し冷ややかな目で見ると
なるほど、と思えるものも見えてきました。

しかし、それでもなお
彼が天才であるという考えは変わりませんでしたし、これからもファンであり続けます。

もちろん、川田先生は私の人生の中で
最も尊敬する人物であり、理想であり、
それはこれから先、どのような事があっても
決して変わる事はありません。

管理人様、
お忙しいとは思いますが、
毎回楽しみにしております(もちろん裏週言も)ので頑張ってください。
  • yama
  • 2008/05/03 13:16
ノートンさんへ

 真剣なコメントありがとうございす。
こういうコメントを頂くと、川田先生のブログを管理してて本当によかったなぁ、と実感してます。私も仕事を持っている身なので、疎かななる時期もあるのですが、これからもがんばって管理していきたいと心を新たにしました。来年あたり、、また新しい小説が上梓されそうです。これからも先生の小説、応援してください。
  • 管理者
  • 2008/04/29 20:39
《一般的な》才と呼ばれる輩が、哀れな素人にとってより近い存在に思えたり、多少の憧れを抱かせ安堵を与えること、そのように思わせたりすることが、資本主義、民主主義家畜社会の需要と供給のカラクリによって成り立つ自動機能のような現代にあっては当然なような忌まわしき現象です。
先生の講義を受けていた当時、
芸能人は『芸NO人』と言っておりました。
大いに同意します。

野球には興味ありませんが、内野安打製造打率至高主義打者とは「彼」のことだろうと私は思いました。
彼のことは天才と言われているが、天才かどうか考えたことはないので意見は挟めませんが。

川田さんの言う「素人」の蔓延が蛆虫の大群か何かに映る私にとっては、毒舌は心の奥底にある不満を浄化してくれるような非常に切れのよいものです。
『血統至上本命ハズレ馬券予想師』
非常に生々しくかつ的を得た表現です。
先生と同じ競馬好きのうちの父親がこの種の予想師のことを嘆いておりました。

  • ノートン
  • 2008/04/19 05:51
今回の週言は、毒舌ですけどすごく面白かったです。(思わずニンマリしてしまいました)
普段、漠然とは感じたり、思ったりはするのですが・・・。
ここまで論理的に書いてくれてスッキリしました!
  • zero
  • 2008/04/17 14:14
はじめまして。

内野安打製造打率至高主義打者とは
やはり「彼」の事なのでしょうか。

今まで「彼」を天才と見てきた私としては
携帯低能小説と同等の位置付けに頭を抱えています。
私の見解が間違っていたのでしょうか。

とても悩み苦しんでいます。。
  • yama
  • 2008/04/16 23:10





   

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   人はこれを言いつくすことができない』

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     ・・・・・・・・・・
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