私は彼らに心が惹かれるのを感じることがあった。彼らには美点があった。善良さ―何の作為もない素朴な善良さだった。同時に彼らの退屈さにも惹かれていた。生計と、蓄財と、子育てと、近所の行事以外に関心のない彼らも、食卓を囲むたびに人生訓を吐いて面目を施している家長も、世の中のことと勉強のことしか言わない長男の秀才も退屈だった。しかし、私のその日暮らしに比べると、この麻薬のような退屈さはとてつもない魅力だった。このまま彼らの中に埋もれてもいいとさえ思った。日常に抱きしめられる感覚。大勢の人の人生を踏襲する幸福に身をゆだねるということは、たしかにある意味で倫理への敗北かもしれない。でもそれは、こと芸術作品でないかぎり、多くの勝利よりもはるかによい敗北なのだ。

 時代の糞として道端にひり出される流行は、一種の投票箱から生み出されるいっときの体制にすぎない。秩序が眼目である体制は、反社会的な苦悩にあふれる者を虐げ、辱めるようになる。そうして、流行に自得する者だけが跋扈するようになる。わかってはいるが、私は彼らに比べれば、人生についてまだ何も知らないも同じだ。私には人生についての、長年かけて肌に貼りつけた認識がない。自分に何が欠けているのだろう。新しく何が必要なのだろう。どうすれば彼らの会話がわかるようになるだろう。

 
JUGEMテーマ:読書

享受者に可能なアタックは、自分とは異質なものとして鑑賞するところまでだ。
 


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     ・・・・・・・・・・
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―竹内銃一郎(劇作家)―

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