芸能界には、若さがなくなるにしたがってますます元気になる輩が何人かいる。老顔のたるみは洒落で補い、哲学の欠如は快活さで、才能の不足は皮肉で補う。そして歪んだ顔に付着しているだけの目は涙を滲ませ、たえず笑っている。人は自分のこしらえた哲学の上に寝るものだが、寝床がないので寝不足なのだ。
 彼らのからだ全体は崩れているが、なお花を咲かせている。彼らの青春は年齢よりも早く逃げだしてしまったのに、うまく笑い崩れながら退却の太鼓を鳴らしたおかげで、人の目には精気としか映らない。彼らは成功して性質がやわらぎ、ときどき絵を描いたり本を書いたりするし、そのうえ、何ごとにも頭から疑いを抱いているので、弱い人たちの目にはそれが強大な機知の力に見える。つまり皮肉家で、顔もたるみ歪んでいるが、同様の人たちのあいだで謙遜らしい老いの年功序列をうまく利用しているゆえに、相変わらず皆の上に立っているのである。

 権威というものが取り巻きを持たないことはなく、いかなる幸運な者も追従者を持たないことはない。未来の成功を目ざす人びとは現在の光栄のまわりに集合する。成功は嫌悪すべきものだ。真の価値の類似物であるそれは人を惑わす。才能の類似物であるそれは妄信者を引き寄せる。成功せよ、と人は言う。栄達は能力をほのめかし、勝利者は尊敬される。幸運たれ! そこにすべてがあるからだ。そうすれば偉大であると信じられるからだ。
 しかし、真の偉大の数少ない例外を除けば、時代の賞讃は近視にすぎないだろう。鍍金(めっき)は純金となる。俗衆はおのれを崇拝し、また俗衆を喝采するナルシスである。群衆は何ごとであれ、いたるところに競争心をかぎつけてその目的に到達した者に、即座に歓呼して才能の冠を与える。空の星形と地上の泥に記された鵞鳥の足跡を、近視の彼らは混同する。

 みごとな物質主義をうまく身につけた者は、正当あるいは不当に得た地位も、変節も、利益ある背反も、ご都合な自己弁解も、そういったすべての人間的責任から離れた喜びを、食っていく喜びに素直に結びつける。彼は自分の人生のためにうまく味つけできる一つの哲学を持っている。その喜びは、美妙で、精緻で、富を愛する者だけが手にすることができ、人生のどんな物質的側面にもよく効く万能のソースである。


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   人はこれを言いつくすことができない』

1  笑い疲れているが、あしたも笑うであろうということ。
     ・・・・・・・・・・
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